株式とは「返さなくていいお金」。借金とは違う『資本』の正体

資産の座標

冬の夜道は油断なりません。 一見乾いているように見えても、実は薄い氷が張っているブラックアイスバーン。 ポケットから手を出し、重心を低くして歩くあの緊張感は、投資に向き合う姿勢とどこか似ています。

50代になり、老後の備えとして新NISAなどで積立投資を始めた方も多いでしょう。 私自身、個別株を売買するような器用な真似はしませんが、投資信託を通じて間接的に「株式」を持っています。

しかし、そもそも株式とは何か。 よく「企業にとって返済不要のお金」と言われますが、なぜ借りたものを返さなくていいのか。 この仕組みを「企業側」と「投資家側」、それぞれの視点で整理しておかないと、暴落という強風が吹いた時に足元をすくわれます。

今回は、投資の根本にある「資本」の座標について考えます。

企業側の視点:借金という「重荷」と、株式という「翼」

まず、お金を集める「企業側」の視点に立ってみましょう。 事業を続ける上で最大の「鬼門」は、資金が尽きることです。

企業がお金を集める方法は、大きく二つ。 一つは銀行などからの「借金(負債)」。もう一つが「株式(資本)」の発行です。

借金は、いわば「重い荷物」です。 事業が成功しようが失敗しようが、期日が来れば利息をつけて返済せねばなりません。 毎月の住宅ローンを想像すれば、そのプレッシャーは理解できるはずです。

対して株式は、法律上、投資家に元本を返す義務がありません。 この根拠は会社法第105条(株主の権利)にあります。 この条文には、株主が持つ権利として「剰余金の配当を受ける権利」や「残余財産の分配を受ける権利」などは明記されていますが、「出資の返還を請求する権利」は存在しません。法律が「返さなくていい」と認めているのです。

「返さなくていい」ということは、返済期限に追われないということ。 企業はこの資金を使って、数年がかりの研究開発や、巨大な工場建設といった、長期的リスクのある挑戦が可能になります。 株式とは、企業が重力から解放され、挑戦するための「翼」のようなものなのです。

投資家側の視点:「貸した」のではなく「参加した」

では視点を変えて、お金を出す「私たち投資家」の立場から見てみます。 なぜ私たちは、返ってくる保証のないお金を差し出すのでしょうか。

なぜ返済されなくても平気なのか

それは、私たちが企業にお金を「貸している」わけではないからです。 株式を買うということは、その企業の「オーナー権の一部」を買い取っていることを意味します。

貸借関係(貸し借り)ではなく、所有関係(持ち主になる)なのです。

私は個別の企業の株を選ぶ目利きではありませんから、基本的には投資信託(インデックスファンド)を買っています。 しかし、パック詰めの商品であっても、その中身は企業の株式です。 間接的であれ、私は世界中の企業の「共同オーナー」として、その事業に参加していることになります。

兵法に見る「傭兵」と「同盟軍」

これを兵法や歴史のメタファーで考えると、違いが際立ちます。

お金を貸す銀行(債権者)は、契約期間だけ働く「傭兵」です。 彼らは報酬(利息)さえ貰えれば、戦の勝敗に関わらず去っていきます。ドライな関係です。

一方、株主(私たち)は、運命を共にする「同盟軍」です。 「返さなくていい」というのは、贈与ではありません。 「勝てば領土(利益)を分け合うが、負ければ共に傷を負う」という、血の通った盟約なのです。

リスクの正体:最後尾に並ぶ覚悟

もちろん、「返さなくていい」には裏のリスクがあります。 もし企業が倒産した場合、残った財産を分ける順番は、株主が一番最後になります(残余財産分配請求権)。

従業員の給料、税金、銀行への返済……これらが全て終わった後、もし何かが残っていれば分け前がもらえる。 ほとんどの場合、倒産時には何も残りません。

この「後回し」のリスクを受け入れる対価として、私たちは配当や株価上昇という、上限のないリターンへの権利を得ています。 預金には「元本保証」という安心がありますが、そこにはインフレに対抗できるほどの成長力はありません。

まとめ

株式の「返済不要」という性質。 それは企業にとっては挑戦のための「時間」であり、投資家にとっては運命を共にする「同盟の証」です。

私たちは、単にお金を預けているのではありません。 リスクを引き受ける「オーナー」として、その船に乗っているのです。 そう腹を括ると、日々の基準価額の多少の揺れも、航海の一部として冷静に受け止められる気がしませんか。

【今日からできる小さな一歩】 ご自身が積み立てている投資信託の「交付目論見書」や「月次レポート」を一度開いてみてください。 そこに並ぶ組入上位銘柄を見て、「自分はこの会社のオーナーの一人なのだ」と想像してみることから始めてみましょう。


【免責事項】 本記事の情報は個人の学習と経験に基づく見解であり、特定の金融商品の購入や投資行動を推奨するものではありません。株式投資(投資信託含む)には元本割れを含むリスクがあります。投資判断はご自身の状況と責任において行ってください。

タイトルとURLをコピーしました